ちいと、落ち着いたので、この問題を。
まあ、簡単に流れを言えば。
Googleブックが、書籍を勝手にデータ化し、
絶版については公開するから、と一方的に
通告してきて。
それはねーだろ? と、米国の著作者側が
訴訟に踏み切り、先日、
・公開するのは、絶版に限る
・ダウンロードで、販売したものについては、
一定の対価を払う
ということで、決着が付いた。
けど、それは米国著作権協会のみの話で
他の国のものも、同様のデータ化をしてる
から、米国以外の国の出版社や著作者が
おいおい、ちょっと待て、こら!
となって、大騒ぎしてる。
また、対価の支払方法や比率なんかも、
まだ細かい方法論は決まっていないらしく、
混乱に一層の拍車がかかってる。
という、状況の模様。
わしのも、どうやら、リストには入ってる
模様で、出版各社からも、和解訴訟の
書面が届いた。
この問題。
実に、IT業界らしい話やなあ、と思う。
一方的に、事を進めて、事後承諾。
多いよね、このパターン。
OS問題なんか、まさにそう。
勝手に、新しいOSを作って、それに乗り換える
よう、強要して、サポートを打ち切って。
で、出てきたものは不完全で、修正の繰り返し。
ユーザーの不満状況を見て、適当に対処して
行くけれど、その頃にはもう、システム化が
できてしまってるから、ユーザーも納得せざるを
得ない状態。
力業の典型やわな。
実に、横暴。
Googleブック検索に、メリットがないわけでは
ないのよ。
絶版となった作品が、日の目を見て、幾ばくか
でも対価を得られるようになる。
また、より多くの、不特定多数の読者の目に
触れる機会を得るから、知名度アップにも、
つながる可能性はある。
ただ、デメリットも大きい。
今回、絶版のみ、という話だが、実際は既刊で
現在も発売中の書籍もデータ化されてる。
いずれ、安価な閲覧販売につながるだろう。
また、見た感じ、試し読みのように、最初の
数ページを読ませるという形ではなく。
ところどころを削って、最後まで見られるような
形を取ってる。
これだと、よほど、肝の部分を読みたい人以外は、
まあ、この程度でいいか、という感じで読まれて
しまうことになる。
当然、ダウンロードもされないから、対価はない。
このあたりは、図書館や大型中古書店の話にも
通ずる。
どの作品かは忘れたけど、あちこちの図書館で
年間ベスト3に軒並みランクインされたことがあった。
おー、読んでくれてんなあ、と当初は喜んでいた
けれど……。
結局、売り上げの数字にはつながらない。
ということは、「売れてない」という判断となり、
ダメだった、ということになる。
評価や対価につながらないんだね。
大型中古書店の場合、漫画については、
いくらかの対価を払うという合意がなされたと
思うけど。
小説については、そういうのはなかったように
思う。
これもまた、対価にならない。
専業の物書きにとって、
対価にならない
数字として表われない
というのは、死活問題でもあるのよ。
その対価で、ギリギリの生活をしながら、次の
作品を書いてるわけで。
いつも、自転車操業。
いくら図書館で読まれていたって、中古市場で
売れていても、肝となる売り上げ数字としては
出てこないから、
売れてない作家
という烙印を押され、苦しくなっていく。
もちろん、このネット時代、出版社の数字の
判別・評価方法にも問題があるとは思うけど。
実際、出版社側としては、本が売れてナンボ
だから、仕方ない面もある。
電子書籍の場合、対価がきわめて少ないという
問題が大きいかな。
値段が安くて、実売数×利率の実入り。
利率は、高いのかもしれないけど、定価が安くて、
実売数といっても、100万ダウンロードなんて
めったにないだろうから。
食えてるヤツは、いないでしょうな。
対価の問題は、実に大きな話でね。
専業は、そこから、生活費や取材費を出して、
次の作品の印税なりが入るまでをしのぐわけ
だけど。
ここを、不安定な実売利率でやられると、もう
専業としては成り立たなくなるんよ。
収入の見通しすら、立てられなくなるから。
ついには、専業はいなくなるだろうね。
他の仕事で、安定した収入を得ながら、物を
書く人ばかりになる。
それが、いい傾向とは思えない。
版元さんのギャラが少ないという論もあるけど。
少なくとも、文章の場合は、ギリでも食える
程度の対価はもらえてる。
今のところはね。
ただ、データ販売が進んで、実売比率のみが
先行すれば、壊滅するだろうなあ。
そこから、新しい形になるのかもしれないけど。
間違いなく、専業はいなくなるよ。
書籍のデータ化も、図書館も、中古書店も。
別に、悪いとは思わない。
本を読む人自体を広げる間口ではあるしね。
電子書籍は、新たな形として、これからも伸びて
いくんだろう。
けどね。
忘れないでほしいのは、
書くヤツがいるから、作品はできる
という根本。
今の流れは、書き手を徹底的に潰す方向性に
進んでるんだ。
おめーら、売れりゃあ、たんまりゼニを儲けるん
だから、それまではカスミでも食ってろや!
好きでやってんだから、地獄も覚悟だろうよ?
という方向に流れてるね。
でもさ。
それじゃあ、物書きになろうと思うヤツはいなく
なってしまう。
そらな。
言うとおりだ。
好きでやってるし、好きなことをしてるんだから、
地獄も見るだろうよ。
けどな。
それは、その地獄の先に、天国があると思える
から、耐えられることだ。
どれだけがんばっても、見合った対価は得られない
という世界に、夢もクソもないし、そんなところに
入ってくるヤツはいないだろう。
それでも、やってみるか?
専業で。
結果、新しい血も入らず。
作品は、今、売れる物ばかりになってしまう。
似たような物が乱造されて、食いつぶしあって、
すぐ飽きられる。
専業は短命となって、次々とリタイアしていく。
作品的にも、書き手的にも、じゃあ、次は?
といったとき、書き手自体がいなくなる。
それで、作品を創りたくても創れない状況が
どんどんできあがる。
まさに、負のスパイラル。
今の若い子が、古典ばかり読んでるのは、少し
わかる気がするんだよ。
こういうことを言うと、必ず、
「買いたいと思うような物を作れない方が悪いんだ」
という論調が出てくるけども。
作り続けなければ、買いたいと思えるようなモノも
作れないやん。
せめて、ギリでも生活できなきゃ、続けるのは無理。
で、いい作品ってのは、継続の中から生まれるもの。
時間がかかるんだよ?
一足飛びに、すげーものができるわけじゃない。
それは、どの業界も同じじゃない。
専業でやってる連中はみな、いいものを作ろうと
がんばってる。
わしもな。
一人でも楽しんでくれるヤツがいるなら、カスミを
食っても、書き続けたい。
楽しんでくれる人がいることが、わしらの一番の
喜びではあるからね。
でも、実際、報酬がなきゃ、続けられないんだ。
食うことだけに必死になり始めたら、作品を創る
どころではなくなる。
こんな話も、実際に聞くんだ。
他で稼いでる人が、本を出したときに、
「あれだけ苦労して、これだけしかくれないの?」
バカバカしくて、やめたらしい。
そういう人は、どんなに力があっても、業界から
去っていくし、片手間で、自分の気が向いたときに
しか書かなかったりする。
それでもまだ、現在の「これだけ」のレベルは、
なんとかでも食えるレベルを保ってくれてる。
そういう点では、この出版不況の中、版元さんも
がんばってくれてると思う。
けど、今の流れが進めば、そのレベルすら保てない
状況になるだろうね。
そうなったら。
やめざるを得ないんだ。
食えないから。
借金まみれで、続けていく人もいるだろうけど。
それでも続けられるなら、まだ幸せだ。
多くの書き手は、借金する体力すらない人のほうが
多いだろう。
もちろん、援助なんてのも望めないわな。
そうなると、どんなに続けようと思っても、やめざる
を得なくなるんだ。
出版界に限らず。
他の業種でも、末端の制作者を潰して、そこから
先に何が残るんだろうと思う。
原料作るヤツがいなきゃ、製品はできないぜ?
ネットの台頭は避けられない。
Googleブックのような件も、遅かれ早かれ、出て
きた話なんだろうと思う。
でもね。
それは、受け入れざるを得ないけど、それならば
せめて、制作者が生きていけるビジネスモデルを
確立してほしい。
本当に。
1日でも早く。
もう、ホントに作り手のみんなは持ちこたえられなく
なってきてるんだ。
どんなに情熱があろうと、物理的に持たなくなって
きてる。
本当に、このままじゃ物作りの根底が崩壊してしまう。
それが、本当にいいことなんだろうかね?
夢のあることなんだろうかね?
本当に、一部の、ラッキーパンチを当てた連中
ばっかの世界になっちまう。
マルチと呼ばれる連中ばっかの世界になるよ。
ポッと出の才能任せの世界になってしまう。
それが本当にいいことだと思うか?
徹底して、物作りの根底を叩き壊したら。
継続によって、培われた知の財産も失って。
日本自体が終わっちまうよ。
それでいいなら、別に、かまわんがね。
こういう流れを感じるたびに。
ささくれた気分になる。
それでも、わしゃあ。
行くとこまでは、行くつもりやけどね。
どこまで行けるもんだか。
身を以て、試してみようと思う。
創作の世界に夢はあると。
信じていたいからね。